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断片的、あまりに断片的な

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紀伊半島を巡る旅Ⅱ~名古屋・伊勢~

せっかく行くのだから色々と見て回りたいのはやまやまだったが、制限時間2日間で紀伊半島を一周するとなると、電車の本数もあまりないということもあり、時刻表に合わせてスケジュールを組まざるを得なかった。まず移動があって、接続などで空いた時間に観光を埋め込んでいく、そんな感じで、中上健次の生誕地である新宮へ行きたいという当初の私の希望も、スケジュール担当者B-GIRLにあっさりとリジェクトされた。そんな5月下旬の駆け足の旅は、夜行バスから始まる。
【23:50新宿西口】→ツアーバス(アミイファクト)→【5:30名古屋駅周辺】(2,800円)
朝、名古屋とくれば、当然期待されるのは「モーニング」とやらだが、5:30の到着はあまりにもモーニングが過ぎる。喫茶店がボチボチと開きだす7:00にわれわれは名古屋を発たなければならず、泣く泣く24時間営業のデニーズで朝食をとった(左の朝食セットにコーヒー飲み放題が付いて650円ほどで、とてもありがたくはある)。

客がほとんどいない店内では、昨夜沼津から名古屋へと戦場を移したばかりのキャバクラ嬢と、名古屋界隈のキャバクラのホールとして働き、キャバクラ/クラブ(飲み屋の方である)事情に詳しく、彼女のように名古屋に流れ着いたキャバクラ嬢の世話をこれまで幾度とやってきたらしい、胡散臭げな男が大きな声で話をしていた。今年の3月に歌舞伎町では、給与未払い・厳しい罰則・セクハラなどを訴える「キャバ嬢デモ」が行われたが、そのキャバ嬢も煮え湯を飲まされた過去があるらしく、熱心に男に相談をしていたが、その男が信用できるのかはわからない。名古屋に数あるキャバクラ/クラブ街の勢力図、家賃事情など、彼らの会話がこの旅での唯一の名古屋体験だった。
 
スケジュールどおり、7:11発の松坂行きに乗り込み、最初の目的地である伊勢市駅へと向かう。通勤・通学人で混み合った車内で、地元の高校生たちのゆっくりとした名古屋弁での会話を子守唄に、しばしまどろむ。
【7:11近鉄名古屋駅】→近鉄名古屋線→【8:25伊勢中川駅】→近鉄山田線→【8:48伊勢市】(1,410円)

「この伊勢で居た間中、私が考えつづけ、自分がまるで写真機のフィルムであるように感光しようと思ったのは、日本的自然の枠でもある神道と天皇のことだった。いや、ここでは、乱暴に言葉を使って、右翼と言ってみる。伊勢市にはいり、模造花をたくさんつけて走り廻るバスやタレ幕のことごとくが、神社に関する事ばかりだったのを見て、私は突飛な発想かも知れぬが、この日本の小説家のすべての根は、右翼の感情にもとづいていると思ったのだった。現実政治や団体としての「右翼」ではなく、そのまま何の手も加えないなら文化の統(すめ)らぎであるという天皇に収斂されてしまう感性の事である」(中上健次『紀州―木の国・根の国物語』)
伊勢市に降り立ち、最初の目的地、伊勢神宮へと向かう。もともと皇室が皇室にとっての神を拝む神社だった伊勢神宮は、しだいに公家や武家、そして庶民にも開かれるようになる。江戸時代に入ると交通網の発達や社会の安定も相まって、全国からさまざまな人が参拝にやってきて「お伊勢参り」が一大ブームとなったが、その目的は信仰というより遊興、あるいは最新情報の交換にあった。しかし、明治期に入ると大日本帝国により伊勢神宮は国家神道の頂点と位置づけられ、ブームは失速、再びものものしいものになる。現在では(いちおう)国から分離しているが、ものものしさは健在で、一般客は白い布がかけられた門の前までしか行けず、本殿が拝めない。井上章一著『伊勢神宮―魅惑の日本建築』(2009)の確認なぞのぞめない。しかも、その門の下あたりに賽銭を置くスペースがあるのだが、横には制服を着たガードマン(神宮職員)が目を光らせ、参拝客たちの一挙一動を見守っており(写真撮影も禁止である)、なんだか気分が悪くなる。
 外宮、内宮と回った後、お伊勢参りの目的の中心であったであろう門前町「おはらい町通り」、そしてあの赤福が作り出した「おかげ横丁」へゆく。「お伊勢参り」の頃の年間200~400万人という参拝客数(人口2500万~3000万に対して)が、1970年代には20万人と激減してしまったのを受けて、赤福の年商分に当たる140億円をかけて作られた「小さな町」(入場料はない)。2007年の入場者数は400万人近くにのぼったようで、観光地再生プロジェクトとしては成功、と言えるのだろう。いかにもな演出に日光江戸村を思い出してしまったが、いち和菓子屋が、行政からの補助金なく自己資金でここまで作り上げるのは、なかなかできることではないだろう(まさかこの費用を捻出するために偽装していたわけではあるまいな)。

そのおかげ横丁内の飲食店で、名物伊勢うどんを食す。たまり醤油に少々だし汁などを入れた濃いつゆの中に、全くコシのない太い麺が入っている。徹底的に柔らかくするため、なんと麺は1時間ほど茹でるのだそうだ。この柔らかさの由来は、「伊勢参りに引っ切り無しに来る参拝客にすぐ提供できるよううどんを常に茹で続けなければ間に合わなかった為」説が有力らしい。茹で置きせざるをえないから、いっそのこと「柔らかさ」をスタンダードにしてしまえ!ということだろうか。まずくはなかったが、気分はまるで病人、である。
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