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断片的、あまりに断片的な

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母の日


――1つ訊くぜ。お母さんを愛してる?

――君の言葉の意味が判らないよ

――誰かを愛したことはないかい?

――女のことかい?

――そういうことを言ってるのじゃない。今までに誰かに対して、
それとも何かに対して愛を感じたことがあるか、と訊ねてるんだ

――僕は神を愛しようとした、今となってみると僕はしくじったらしい。とてもむずかしいんだ。
自分の意志と神の意志とを、一瞬一瞬、結びつけようとしたんだ。
その点ではいつもしくじっていたというわけではなかった。たぶん今でも・・・

――お母さんはしあわせに暮らしてきたのかい?

――そんなこと、僕にわかるもんか

――苦労をかけないようにするつもりはないのかい?・・・どうなの?

――できることならね、たいして骨の折れることじゃないから

――じゃあそうしろよ、お母さんの思うようにしてあげたらいいじゃないか。
聖餐なんて君にとっては何でもないんだ。君は信じてないんだから。あんなものは形式だ。
それだけのことさ。それでお母さんを安心させてあげられる。
この糞だめみたいに臭い世の中では、ほかのものはみんな不確かだけれど、母親の愛情だけはそうじゃない。
お母さんは君をこの世に連れてきた人だし、最初に自分の体の中に君をかかえてたわけだ。
ぼくたちにお母さんの気持ちは判らない。
でも、お母さんがどう感じていようと、それは少くとも真実だってことは確かだ。
これは間違いないね。
ぼくたちの考えとか野心とか、そんなもの何だい?遊びさ、考えだなんて!
そんなもの、あの糞ったれのめえめえ山羊のテンプルだって持ってる。マカンにだってある。
そこらを歩く間抜け野郎どもはみんな、自分の考えの持ちあわせがあると思っているんだ。

――パスカルは、ぼくの思い違いでなければ、お母さんにキスさせなかったそうだ。
女性に触れられるのを恐れて。

――パスカルなんて豚だ

――アロイシュウス・ゴンザガも同じ意見だったと思う

――じゃあ、そいつも豚だ

(ジェイムズ・ジョイス『若い芸術家の肖像』)


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