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断片的、あまりに断片的な

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李相日『フラガール』

本州最大の炭鉱があった福島県はいわき市。国の産業を担っていたこの市は、戦前から戦後にかけて毎日がお祭りのような活気に溢れていたという。しかし、昭和30年代後半から、エネルギーの主役は石炭から石油に代わっていく。炭鉱はつぎつぎと閉鎖に追い込まれて、地域経済も大きな打撃をうける。そんな状況の救いの神が「温泉」だった。実はこの温泉、炭鉱労働においては、劣悪な労働環境を生む邪魔なものにすぎなかったそうである。なんでも石炭を1トン掘るために40トンの温泉を汲み出してしまうほどで、当時一日の湧出量は、日本の総人口に毎日一合の温泉を分けられる程の量だったとか。このような過去においてはマイナス要因でしかなかった温泉を、未来に向けてプラスに転換させるべく創られたのが「常磐ハワイアンセンター」(現スパリゾートハワイアンズ)である。
映画の舞台は昭和40年、「常磐ハワイアンセンター」オープンに至るまでの少女たちの、街の人々のとまどいや奮闘が描かれる。炭鉱閉鎖に伴い解雇されてしまった労働者たちにとって、ハワイアンセンターは恨みの対象でしかない。自分たちの誇りを突き崩してしまうような新しい時代の流れ、その象徴がハワイアンセンターだからである。そして、非難のまなざしは、センター設立に伴い東京から呼ばれたフラ・ダンス教師、平山まどか(松雪泰子)に向けられる。まどかは、新たなる時代、異文化、よそ者、(そして女)、全てを体現した存在である。
そんな中でも、今までの生活から脱却したい、新しい世界に飛び込みたいと夢見たり、なんとか生活費を稼ごうとする少女たちが、フラ・ガールになるべくレッスン場の門をたたく。父親に殴られ、母親に勘当されようとも、少女たちは新しい世界=新しい身体の可能性を信じる。新たな世界を切り開く手段としての新たな身体の獲得(ダイエットや化粧、あるいは美容整形を煽るおなじみの言説であるといえよう)。

東京で流行っているカラフルな洋服をまとい、大きなサングラスをかけ、酒壜片手に煙草をくゆらせるまどか先生は、いわき市の人々にとってはエイリアン以外の何者でもない。そのエイリアンが、フラ・ダンスなどという得体の知れないダンス、異質な身振りを少女たちにうえこんでいく。

しかし、そうすんなりは行かない。まず、フラ・ダンスの衣装を前に少女たちはたじろいでしまう。フラ・ガール採用説明会で、フラ・ダンスのビデオを見させられた少女たちの大半が「あんな恥ずかしい格好できるものか」と、慌てて説明会会場から逃げ出してしまう。大胆な腰のひねりにとまどう。身体に刷り込まれた文化(ハビトゥス)が、あまりにも違いすぎるのだ。「アンタたちには所詮無理だろうけどね」、まどか先生は常々悪態をつく。
異文化とはまず何より身体である、ということ。

※「フラ」という言葉にはダンスという意味も含まれているので、「フラダンス」とは間違った用法である。今回はフラ・ダンスと表記した。


フラガール

監督:李相日
出演:松雪泰子、豊川悦司、蒼井優、富司純子、岸部一徳
2006年日本

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