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断片的、あまりに断片的な

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「白い」ダンスが世界を救う——『レッスン!』『ダンシングハバナ』ほか

久々に、というかほぼ初めてアントニオ・バンデラスの主演作を見た。社交ダンス映画『レッスン!』である。以前このブログで、ニューヨークの小学校に導入された社交ダンス教育プログラムについて追った『ステップ!ステップ!ステップ!』について書いたが、『レッスン!』のなかでアントニオ・バンデラス演じる主人公は、実際にニューヨークのスラム街の小学校でダンスを教えていた実在の人物ピエール・デュレイン氏(映画でも同名)がモデルとなっている。
名前から伺われるように、デュレイン氏の父はアイルランド人、母はフランス人。中東で生まれ、イギリスで育ったという複雑なアイデンティティを持つデュレイン氏だが、英語がなまっていたためにイギリスの学校ではかなりバカにされたようで、常に「よそ者」意識を持って生活していたという。14歳で引っ越した家のすぐ側にダンススクールがあり、ためしに通ってみたらダンスの世界にのめり込んでしまったという彼は、それを「外の世界から逃げること」だったと回想しているが、むしろ逆にイギリス的身体の獲得(「外の世界」との同化)という意識も少なからずあったのではないだろうか。そんな彼がニューヨークにやってきたのは1971年の21歳のとき。2週間の滞在のつもりだったはずが、以来そこに住みついてしまった。社交ダンスの聖地ブラックプールで4度の優勝経験を持つ彼は、現在自身のダンス教室やジュリアード音楽院、そして小学校でダンスを教えている。 
映画の舞台は小学校ではなく高校に変更されている(ロマンスの加味)。ひょんなことから、スラム街の高校の「居残り生徒組」に社交ダンスを教えることになったピエール。そこでの彼の異質さや異文化さはやはり身体が体現してしまうもので、映画ではそこがおもしろおかしく描かれている。

学校の職員室の待合い場で順番を待っているあいだも、女性がドアから出入りしようとするたびにドアをあけてやる「ジェントルマン」なピエール氏。それを隣でエイリアンを見るかのように口を開けて見やる黒人の生徒。生徒たちにとって極めて退屈な社交ダンスの音楽をうっとりと聞き惚れ、それを呆れ顔で眺める生徒たち。あらゆる問題児やトラブルを抱えて日々格闘している黒人の校長に、あくまで紳士然と社交ダンスの素晴らしさを語るピエール。この学校にとって、ピエールの礼儀正しさはあまりに異質で「バカ」丁寧だが、だからこそそれは、呆れて笑えるものになる。校長VSピエールの対立は、現実VS夢でもあるが、日々の「現実的」な状況に突如あらわれた「バカ」さ、それじたいがここでは「夢」となる。
ヒップホップで育ってきた生徒たちにとって、社交ダンスの「退屈さ」は最初はなかなか受け入れられなく、たびたびピエールのレッスンは妨害に合う。とにかくそれはださくて、古くさくて、リッチで、鼻持ちならなく、つまり自分たちの身体にそぐわないものなのだ。それほど何を踊るかということが彼らのアイデンティティになっている。ピエールはそんな彼らに興味を持ってもらおうと、「いや、でもサンバとかルンバとかラテン種目のリズムのルーツはアフリカにあって・・・」なんて説明するが、「そうやっていつも都合よく”アフリカ”を持ち出すんだ!」とアフリカ系黒人にやり返されてしまう。

ピエールは第2の作戦として、「悪くて危険な」社交ダンスのデモンストレーションを行う。自身のダンス教室の生徒でスタイル抜群の女性とペアを組み、生徒たちの前で艶やかで際どいタンゴを披露するのだ。男子生徒は、肌の露出の多い衣装を身につけた大人の女性に目を奪われ、女子生徒たちもあの「美しい身体」への同化を胸にはせる。それですんなり受け入れられてしまうのが映画だが、この頃には生徒たちは、変わることのないピエールの「バカ」丁寧さに面白みを感じ始めた頃でもある。

社交ダンスのレッスンを通じて、生徒間の確執がロマンスに変わるといった歩み寄りや、「太ってる子を好きな俺ってクールじゃないから恥ずかしくてそんなこと言えなかったんだけど、やっぱ好き」という自己肯定など、それは状況を好転させていくが、「白い」ダンスがそれ以外の色のダンスに入り込んでその世界にいる人びとを救う、あるいは自身の「白い」ダンスのステップアップになるという図式は、ダンス映画ではおなじみである。

『ダンシング・ハバナ』ではキューバに訪れたアメリカ人女性がそこでのサルサ経験を通して、自分のバレエ表現に深みを加えて成功していくし(ロマンスの相手のキューバ人はどうなったのだろう?)、『セイブ・ザ・ラストダンス』でも同様に白人女性のバレエと、黒人男性のヒップホップが出会い、女性がジュリアード音楽院の試験(フラッシュダンスの1シーンを彷彿とさせる)で成功するというもの。最近見た、『ステップ・アップ』も似たような構造だ(「白い」ダンスの主体はみな女というのが興味深い)。 もちろんこういったダンスのダイナミクスが繰り返し描かれるのは、それらが異文化として存在していて、異文化間の交流なり対立を描くにはもってこいの題材だからだ。だからオリジナルのストーリーをほぼ踏襲したアメリカ版『Shall We Dance?』は、多くのアメリカ人にとってあまり面白いものではなかったのだろう。
レッスン!“Take the Lead” 2006年/アメリカ
監督:リズ・フリードランダー
出演:アントニオ・バンデラス、ロブ・ブラウン
コピー:先生、世界一の社交ダンサー 生徒、誰もが見放す落ちこぼれ

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