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断片的、あまりに断片的な

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曖昧な身体―ジャン=クロード・コフマン『女の身体、男の視線』

ある友人(子持ち/男)が、夏休みに子供とプールに行った話をしてくれた。やはりというおうか、女性たちの水着姿を十二分に堪能したようで「イヤ~目の保養になったなった」とお腹いっぱいそうに話す。プールや浜辺は、「見る」男/「見られる」女という図式がはっきり見える空間であると言えるだろう。あるワイドショーでも、浜辺をフラフラ、高性能のカメラでギャル達の水着姿をパシャリパシャリしている男性たちが続出!といった事件が紹介されていた(女性だって「イヤラシイ」視線で男性を眺めることだってあろうから、問題は写真としてコレクトするという、男性の「収集」「フェチ(物神崇拝)」にある。まぁこれは別の話である)。

女性たちは「見られて」いるが、しかしまた同時に「見せて」もいる。この境界線は非常に曖昧だ。その線引きは個人的になされるし、状況や相手との関係性によっても変わってくる。「あんたらに見せるために着てるんじゃない」、「別に誘惑しようなんて思ってない」、「あんたがそれを言うのは気分が悪い」など、「見る」側と「見られる」側の状況認識の相違。痴漢やセクハラ問題の難しさのひとつはここにあろう。

ジャン=クロード・コフマンは、浜辺のトップレス女性たちの意識調査を『女の身体、男の視線』(新評論2000)にまとめている(調査場所はフランス、ブルターニュ地方の浜辺。調査年はざっと読み返してみた限り探せませんでした、分かり次第明記しますがおそらく80年代後半から90年代初頭。ちなみに原著は1995年出版)。

そもそも、「社会的に身につけるべきものを剥ぎ取る」という意味でのトップレスは、60年代にアメリカを中心として起こった身体解放運動に負っている。ドラッグ、ヨガや瞑想などの東洋的身体修行、ボディペインティングやポスト・モダンダンスなど、新たな身体感/観の獲得を通して、社会のルールや心身二元論(心が体より上)を批判し、社会的な抑圧からの解放の身振りが追及された。


トップレスもそのような解放かつ反抗の身振りとしてあったわけだが、コフマンが調査した時代・場所では、そのような意味は、女性たちだけが戸惑いを伴いながらも受け継いでいるだけである。
コフマンが議論のポイントとしてあげるのも、その彼女たちの戸惑い、つまり「見られる(受動)/見せる(能動)」双方を抱え込んだ彼女たちの曖昧かつ矛盾した実践である。「見せてるわけじゃない、でも見られて悪い気はしない、でも妙な視線で見られるのはイヤダ!」というわけだ。

これには当惑してしまうかもしれない。でも、それまでただひたすらに「見られる」存在として対象化されてきた「口無き」女性たちが、対象化されることを問い出した結果であるにすぎない。身体の「美くしさ」に対する考え方にも同様のジレンマがあって、「若さが何よ、美しさが何よ、そんなもんは関係ない!誰でも自由にトップレスになるべきよ!」と叫んだ後で、「でもやっぱり皺くちゃだったり、垂れ下がった胸をさらけだすのはどうかと思う。でももちろん自由なんだけど・・・」などと歯切れが悪い。

ときに「見られる」こと(対象化されること)に喜ぶし、「美しさ」の価値基準も完全に捨て去ることが出来ない。当然だ、社会はそのように彼女たちを眼差し捉えるのだし、彼女たちはそのような社会に関わり生きている。自分勝手で我儘に見える彼女らの言い分、でも、彼女たちはそんな曖昧な身体を生きざるをえない。誰とも関係しないのであれば事は完璧に行われるだろう。


ノベルト・エリアスは女性たちのトップレスは、外見上の解放にすぎず、むしろ増大した自己抑制の能力だけがこれを可能にしていると述べている。「解放された身体」を呈示するために、あくなき努力――美しい身体構築、もろもろの手入れ、「解放」しても危険がなさそうな場所選び、トップレスになるにふさわしい時間の見計らい、ときにはイヤラシイ視線をやりすごす図太さ、あるいは「流行」への対応――が要求される。コフマンはトップレスの実践をゲームとして分析している。

だらしなく見える肌を露出させたギャルたちの身体も、そのような規律を引き受けて・・・いるのだろう、多分。
クラブ/レイヴでの身振りも同様に。「私、ただ踊り狂いたいだけだもん」という、音楽/ダンスへの欲求、個人的なダンスの遂行、対象化されない身体の志向。でも眼差されることは重々承知、である。「見せてるわけじゃない、でも見られて悪い気はしない、でも妙な視線で見られるのはイヤダ!」。
女性のなりふりかまわないダンスの身振りが「男入ってる」なんて、どうしていえよう。その身振りはただ、曖昧なのである。

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